全国安全センターは福島第一原子力事故以来、緊急時の被ばく線量の上限について、事故の経験を踏まえた上で、上限についての議論をしていくことを要望し続けていました。7月30日の原子力規制委員会において、本件について議論を開始することが提案・了承されました。
引き続き、被ばく労働問題に取り組んできた関係諸団体とともに必要な要請を続けていきます。
これまでの要請内容等については
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緊急時の被ばく「上限」見直し検討へ
東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生した直後、被ばく線量が法令の上限に達する作業員が相次ぎ、急きょ特例として上限が引き上げられたことを受けて、原子力規制委員会は「被ばく線量が上限を超える事故が起きる可能性を完全には否定できない」として、上限の見直しを検討していくことを決めました。
現在の法令では、電力会社などに対し、原発事故などの緊急時の作業員の被ばく線量を累計で100ミリシーベルト以下に抑えることが義務づけられています。
しかし、3年前の福島第一原発の事故では、上限を超える作業員が相次ぎ、国は急きょ、特例として発生の3日後からおよそ9か月間にわたり、上限を250ミリシーベルトに引き上げました。
これについて、原子力規制委員会の田中俊一委員長は30日の定例会合で、「作業員の被ばく線量が100ミリシーベルトを超える事故が起きる可能性を完全には否定できない。100ミリシーベルトを前提としながらも、それを上回るような事故が起きた場合に備えて対応を検討したい」と提案し、了承されました。
原子力規制委員会では今後、国際的な基準を踏まえながら、緊急時の作業員の被ばく線量の上限をいくつにするかや、作業員の意思を事前に確認しておく方法、それに、日常の訓練や健康管理の在り方について検討を進めたうえで、法令の改正が必要な場合は、検討結果を国の放射線審議会に諮ることにしています。
事故直後に上限超相次ぐ
東京電力福島第一原子力発電所の事故では、発生の直後に収束作業に当たった作業員を中心に、緊急時の上限を超える被ばくが相次ぎました。
緊急時の被ばく線量の上限は、事故発生から3日後の平成23年3月14日に、特例として100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げられました。
東京電力によりますと、それでも上限が元に戻された平成23年12月までの間に6人が250ミリシーベルトを超える被ばくをしたということです。
このうち、最も被ばく量が高かったのは、事故の発生直後から3号機と4号機の中央制御室で収束に向けた作業に当たった東京電力の30代の社員で、累計で678ミリシーベルトに上っていたということです。
また、200ミリシーベルトを超えた人が3人いたほか、元の上限の100ミリシーベルトを超えた人は163人に上っています。
福島第一原発では、今も廃炉に向けた作業や汚染水対策のために1日平均でおよそ5000人の作業員が働いていて、事故発生からことし5月末までに被ばくを伴う作業に当たった人は東京電力と協力企業を合わせて3万5000人余りに上っています。
規制委員長「非常に大事な問題」
緊急時の被ばく限度の見直しを検討することについて、原子力規制委員会の田中俊一委員長は記者会見で、「緊急時の被ばく線量は非常に大事な問題で、福島第一原発の事故を踏まえてよく考えなければいけない。重大事故が起きてからバタバタと基準を引き上げることがないよう準備をしようということだ」と述べました。
そのうえで、「どこまでの被ばく量ならどの程度の影響が出るかについての知識なければ作業員は不安になる。あらかじめ、放射線被ばくの影響について勉強をしてもらったり、フォローアップはどうあるべきかについても検討が必要だ」と述べました。
一方、原子力規制委員会は原発再稼働の前提となる審査で、事故が起きた際の作業員の被ばくが100ミリシーベルトを超えないようにする対策を求めていますが、田中委員長は今後、緊急時の被ばく限度を見直したとしても、この方針は維持する考えを示しました。
労働団体「当事者を交え検討を」
労働団体の立場から、緊急時の被ばくに備えた体制作りを国に求めてきた東京労働安全衛生センターの飯田勝泰事務局長は「一歩前進と評価したいが、単に国際的な基準を引用するのではなく、実際の健康へのリスクや長期的な健康管理体制などと合わせて、上限について議論すべきで、最初に数値ありきではない」と話しています。
そのうえで、今後の検討の進め方について、「福島第一原発の事故を経験した作業員など当事者を交え、事前に本人の意思を確認する方法などを含めて、慎重に検討してほしい」と話しています。
出典:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140730/k10013402611000.html